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教員生活を終えて自分で学校を作った理由

教員生活を終えて自分で学校を作った理由

岡部利一

『黒松内ブナ塾』(無料塾)を始めたわけ

私は退職後(5年前)に、サルティナブル(持続可能)な暮らしのデザインツールである「パーマカルチャ―」を実践的に学ぶ場「ブナ自然学舎」を始めた。2年後には菓子製造等の許可を取得し、スコーンやシフォンケーキ等を提供する『ビーチ・カフェ』を営業。一昨年からは、カフェの2階をリフォームし、小・中学生を対象にした「黒松内ブナ塾」(定員10名程度)を開設。現在は11名の小学生が週一回(土曜日)、算数と理科を中心に学習している。塾は子供達が住んでいる市街地から5㎞ほど離れた田舎にあるので保護者が車で送り迎えをしてくれている。

なぜ『黒松内ブナ塾』(無料塾)を始めたか、それはパーマカルチャ―の倫理の一つに“分かち合い(余剰物の共有)”があり、自分にできることは可能な限り“シェア”したいという思いからである。また私も子供達や保護者の方々からたくさんの元気をいただき感謝している。

38年の教職を振り返って

私が初めて教職に就いたのは昭和53(1978)年である。小学校7校、中学校3校、児童・生徒数12名から700名を超える学校に勤務させていただいた。その38年間を振り返ってみると前半の20年と後半の20年に大きく分けられる気がする。前半の20年は全国的に校内暴力やいじめが社会問題化していたが、保護者と学校は同じ思いで子供達の教育を行うことができた。

しかし後半の20年は新自由主義(市場原理主義)の政策の下で、学校も単なる公共機関の一つとして位置づけられ、子ども達や保護者のニーズにひたすら応える、サービス業としての学校が求められるようになった。以来、保護者からの自己中心的な要求も多くなり、保護者と学校と社会が三位一体となった教育は過去のものとなった。同時期に始まった学校評価、教員評価は忖度する教員を増やし、主体性を奪ってきた。

学力向上を目指した全国学力テストも開始されたが、点数や順位が学校や教員の評価に使われ、近年では過去問を繰り返し解くことに多くのエネルギーと時間が使われ、教科指導が十分にできていない学校も多くなってきているように思う。また、年々増え続ける○○教育(例:キャリア教育、国際理解教育、人権教育、ネットモラル教育、プログラミング教育、オリンピック・パラリンピック教育等々)は各教科の指導時間を奪っている。

学校教育の現状が書かれている書籍
学校教育の現状が書かれている書籍

フィールドワークで知的好奇心を培う

教員時代に常に心掛けてきたことは、子ども達の身近な地域素材の教材化である。教科書の言語や図だけでは、具体的なイメージがわかず、もっと調べてみようというモチベーションがなかなか湧いてこない。教師自らが、「なぜ?」「どうして?」を大切に、身の回りの事象や事物を調べ、教材化してこそ、子ども達に「知的好奇心」を培い、「探究力」を高めていけると思っている。さらには地域の自然に親しみをもち、自然環境を大切にする心が育つと考えている。

野外観察やフィールドワークで本物の自然に触れることで、知的好奇心が培われる。コロナ禍で時間がなかなかとれなかったが、今年は大いに実施していきたい。写真の『黒松内自然ガイドブック』(1991年)は黒松内の町づくり(ブナ里構想)の一環として編集し、出版したものだが、黒松内をフィールドに地層や植物、動物等を調べ、教材化した資料が元になっていて、小学生以上が理科や総合的な学習の時間や自然散策の手引き等で活用できるように編集してある。また『道南の自然を歩く』(北海道大学図書刊行会)は地学団体研究会道南班がまとめた本で、私は黒松内を担当させていただいた。

個別実験で探究力を鍛える

「理科は教科書だけではなく実験をさせることが重要です。今の子供たちが本物の自然に触れる機会が激減していることが問題である」(2000年度ノーベル化学賞受賞者 白川英樹博士)

 
特にブナ塾では、実験・観察を重視し、本物の事物や自然に触れながら理科を学び、探究する力がつくように努めている。「ペットボトルで雲をつくる」「釘を使って電磁石をつくる」「放射温度計を使って色々な物の温度を測る」「てこの実験」等、実験テーマはそれぞれに異なるが、友達の実験から互いに学び合う機会にもなっている。なお、実験・観察に必要な器具や装置、薬品は通販で購入できるのでとても助かっている。

個別実験用のトレー
個別実験用のトレー

知的好奇心のプラットフォームに

世界21か国の16歳~65歳を対象にした2012年の国際成人力調査(読解力、数的思考力、IT活用による問題解決力)で日本の平均点はトップクラスだが、「新しいことを学びたい」という知的好奇心は著しく低いという。本来、知的好奇心は年齢に左右されるものではないが、日本の20歳の知的好奇心はスウェーデンの65歳と同レベルとのこと。

これからは、どんな学びが必要なのか、グーグル人材開発部長の言葉が参考になる。

「もちろん賢いことは重要だ。でも知的好奇心のほうがもっと重要だ。グーグルで成功する人は、すぐに行動を起こしたがる傾向がある。壊れている物を見つけたらすぐに直すような性格だ。問題を見つける能力も重要だが、見つけた問題に不満を並べたり、誰かがそれを解決してくれるのを待っていたりしないこと。『どうすればもっとよくできるだろう』と自問すること。それからすべてにおいてコラボレーションが必要不可欠だ。周囲に多様な専門性を持つ人がいることに気づき、彼らから学ぶ能力のある人物を私たちは高く評価する。」(トニー・ワグナー著『未来のイノベーターはどう育つか』より)

昨年、ブナ自然学舎のガーデン横に屋根だけの「ネイチャーハウス」を建てた。老若男女が一堂に会し、農業や食や自然を学び、知的好奇心を高める、プラットフォームになればと思っている。

ガーデン横のネイチャーハウス
ガーデン横のネイチャーハウス
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