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100年以上続く西北海道の銘菓「トンネル餅」から学んだこと

100年以上続く西北海道の銘菓「トンネル餅」から学んだこと

「トンネル餅」を求めて末次商店へ

子供の頃からの馴染みの和菓子、「トンネル餅」が食べたくなって、末次商店に向かう。「トンネル餅」の旗を掲げたお店は国道5号線に面し、JR函館本線、小沢駅(こざわえき)のすぐそばにあるので比較的わかりやすい。売り切れでお店が閉まっていることもあるが、カウンターに2個あったので運よく、購入することができた。

「トンネル餅」は上新粉を練って機械で蒸し上げ、砂糖を加えながらついて作る「すあま」であるが、独特の柔らかさと優しい甘さは一般に売られている「すあま」とは別物である。保存料や他の材料は一切加えていないので賞味期限は製造日当日となっている。確かに時間が経つと柔らかさは消えていくが、すぐに冷凍保存し、自然解凍するとまた美味しく食べることができる。

1904(明治37)年、歴史的な難工事と言われた稲穂トンネルの開通をお祝いし、当時、駅前で弁当・菓子店を営んでいた和菓子職人、西村久太郎氏が売り出したのが「トンネル餅」の最初である。1912(大正元)年には岩内線も開通し、小沢駅は商売人や学生、鉄道関係者でごった返していたという。「トンネル餅」は太平洋戦争等の物資不足や西村氏の村外転出で一時製造が途絶えたが、1950年頃に元国鉄職員の末次賢逸氏が製法を伝え聞き、復活させた。2代目の敏伯さんは2003年に亡くなり、現在は妻のセツ子さんと3代目の長男敏正さんが「トンネル餅」を作り続けている。

末次商店
共和町小沢95、TEL0135-72-1005、営業時間:8:00~17:30頃
定休日:不定休 (※商品がなくなり次第閉店)

「ガンガン部隊」で賑わった戦後の小沢駅

終戦後は一億総買い出しの時代とも呼ばれ、大きなブリキ缶や籠に食糧を詰め込み、それらを背負って行商を行う姿が日本各地でみられたという。小沢駅も小樽や岩内等からのガンガン部隊で賑わったたらしい。小樽の中央市場には当時のガンガン部隊を再現した展示物が置かれている。ガンガンは空でも約20kgもあり、鮮魚や乾物等を入れたガンガンを背負うのは大変だっただろう。

「男はつらいよ(望郷偏)」にも登場した旧末次商店

店内の壁には「男はつらいよ(望郷偏)」のロケ地となった時の記念写真が掲げられていた。実際にロケで使われた末次商店(映画では末次旅館)は元のお店でもっと駅寄りにあったとのこと。映画に旧小沢駅舎や跨線橋(こせんきょう)も登場している。レトロな跨線橋は今も現役である。

和菓子色の絵に会いたくて

トンネル餅の考案者の西村久太郎氏の長男である画家の西村計雄氏の「西村記念美術館」が共和町にある。1951年、計雄氏が単身渡仏、ピカソを育てた画商カーンワイラー氏は作品の明るく淡い色合いを見て「和菓子の色」と評した。計雄氏も「父が和菓子職人だったからこそ、自分の絵がある」と父に感謝していたという。

当時の面影を残す駅

そんな和菓子色の絵に会いたくて「西村計雄記念美術館」(共和町)を訪ねた。1999年に開館、約5,400点にのぼる作品を所蔵し、年4回ほど、テーマを変えて展示している。トンネル餅に描かれた、淡い緑とピンクの線のような明るい「和菓子色」の絵は、渡仏してからの作品に多いように感じた。

「一枚一枚の絵が、変わらなくてはいけない。ちょうど日記のように、その日その日の生活が記録されていく。そういう絵描きになりたいと思います。」という計雄氏。時代の変遷とともに画風が変化し、特に渡仏前の作品は、明るい和菓子色の絵ではなく、北海道の自然の厳しさを感じる作品に思えた。

~「作品を観ることは、描くことと同様に創造的な行為である。西村が「自分」をみつめ、自然に学ぶ中から独自の表現をつくり出したように、作品を観る人は、作品を通じて自分の経験や知識を見つめなおし、組織しなおして作品の意味を創り上げる。」~ 受付(売店)で購入した絵画写真集(「西村計雄記念美術館コレクション選」)にあった文である。これからも計雄氏の作品を自分の興味や経験、知識と重ねて作品の意味を考えて、楽しんでいこうと思った。

「トンネル餅」から学んだこと

サスティナブルな和スイーツともいえる「トンネル餅」が1世紀以上も愛され続けている理由を考えてみた。

(1)デザインのシンプルさ
原材料がお米と砂糖のみで保存料等を加えていない素朴さ、また白い餅の上に線路をイメージした淡い緑とピンクの2本のラインを描いたデザインや包み紙のレンガを積んだトンネル、煙をはいて力強くトンネルを駆け抜ける蒸気機関車の力強い姿など、全体のデザインがとてもシンプルに仕上がっていること。

(2)顔の見えるスローフード
作り手と買い手の顔が見える対面販売を大切にしていること。相手のために原材料にこだわり、美味しく安心して食べられるように、またフードロスが出ないように状況に応じて作る数を決めているなど、環境に配慮した本物のスローフードであること。

(3)唯一無二の手作りの郷土菓子
地域の自然や人の関わりを大切にし、生産から販売までを一貫して行っているので唯一無二の心のこもったお菓子になっている。道の駅等で売られているお菓子は名前やパッケージのデザインに地元感を出しているが、遠い所でつくられたり、保存料等も多く使われていたりと、郷土菓子とは呼べないものがほとんどであること。

あるデザイナーいわく「デザインとは引くことである」、つまり「デザインとは、形が本来持っている姿を見つけるために、余計なぜい肉を取り去る作業である」と。

まさに「トンネル餅」は材料においてもパッケージのデザインにおいてもシンプルで無駄がなく、西村久太郎氏の自然や人の本質を見出す力が優れていたのではないかと思う。

コロナの時代、人々は本質的な価値観を大切にするようになってきた。これからも「トンネル餅」から「引き算」の大切さを学び、持続可能な暮らしを心掛けたいものだ。

西村計雄氏が菓子箱等に描いた箱絵
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