寿都町が進めた文献調査応募と未来への再考案

核のごみ受け入れに関する調査で、西北海道の寿都町と神恵内村の2町村、そして周囲の町村が揺れている。なかでも、寿都町に焦点を当ててとりあげていく。
当メディアは西北海道に住む人たちの目線を重要視しているため、目を背けずこの課題に関して取り扱うことにした。地域に住む方など様々な情報を伺い、調べた事をみなさんにお伝えしたい。
この記事のポイント
- 寿都町長は洋上風力の誘致を目指し、予算確保のため文献調査に応募した
- 海への影響懸念から洋上風力にも民間は懐疑的、自治体としては官主導で予算確保したい
- 再生可能エネルギーの勉強会がいつの間にか核ゴミ勉強会になった
- 調査は3STEPで20年かかる
- 調査ストップには市町村長と都道府県知事の意見をきくという事であり、住民の長としての判断に委ねられる
- では、住民ができることは?
マスコミからはあまり見えないこれまでの経緯
2020年10月8日、寿都町は放射性廃棄物(いわゆる核のゴミ)の地層処分場に関する文献調査に応募。全国ニュースで毎日のようにとりあげられ、色々な意味で「寿都町」という名前が知れ渡ることとなった。
ニュースとしてとりあげられたのは、2020年8月13日の北海道新聞朝刊からはじまる。寿都町の一般住民や北海道民は、このお盆の最中に知ることとなる。
そもそも、どのような流れで文献調査の応募となったのかを整理する。
2019年4月:2019年度は3回に渡って寿都町エネルギー勉強会が開催されている。これは2020年第8次寿都町総合振興計画への反映のため、風力を中心とした再生可能エネルギーをより深く知ることを目的として行われたようだ。メインは、洋上風力に関する内容であったと思われる。講師は経産省北海道経済産業局。参加対象者は、寿都町の各産業団体や議会議員、そして町長であった(このあたりは議会での議事録を広報などでも知る事ができる)。
2019年10月:このエネルギー勉強会に講師として訪れていた北海道経済産業局の職員に、寿都町長が地盤調査に関してなんらかの方法がないかを尋ねる。その際の回答が、「核ゴミに関する文献調査」という手段であった様子。その後、コロナ禍となり、2020年2月から寿都町としての政策はどのようにしていくべきかを議会で議論。
2020年3月:エネルギー勉強会は、核のゴミに関しての勉強会となっていく。
6月:NUMO(原子力発電環境整備機構)を招き、文献調査、概要調査、精密調査のステップ、そして調査のとりやめに関する内容を勉強会にて産業団体、議会議員、町長参加のもと実施。
収入源としての文献調査。地盤調査を行うための予算、洋上風力の誘致や設置に関する予算として官が主導していくための費用を捻出することを目的として実施したいと寿都町長は検討を進めていたようだ。
2020年に実施された議員が参加する協議会(本議会でない)などでも、核のゴミに関してたびたび発言されるようになった。議員からも、「ちょっと(洋上風力とは)違う話に向かっているのではないか」という会話が出ていたようで、それに対して町長は「変わらない。私は洋上風力の誘致に向けて動いている」という回答であった様子。
9月7日〜29日:寿都町内各地区で調査応募に関する8か所計9回の住民説明会を開催。
10月2日:「子どもたちに核のごみのない寿都を!町民の会」勉強会を開催。
10月7日:214名の署名により、住民投票の直接請求を条例化する為の要求が住民により提出。
10月8日:寿都町長が経済産業省へ文献調査に応募。
10月23日:住民投票に関する条例案の縦覧期間が終了、正式に「寿都町における特定放射性廃棄物最終処分施設建設地選定に関する文献調査への応募に関する住民投票条例案」を選挙管理委員会へ提出。
2020年11月3日(予定):寿都町にて小泉純一郎元総理大臣 講演 14:30〜
2020年11月11日〜13日(予定):寿都町議会 臨時議会開催
現在、寿都町内で反対する住民は、住民投票の条例化を待ち、核ゴミの賛成か反対かに関する住民投票を行うべく進めているようだ。
洋上風力と寿都町の主幹産業
そもそも、洋上風力に関する誘致はどのようなものであったのだろうか。
周辺7町村の協議会にて、民間の漁師などの生命線である海に影響が少しでも考えられるようであれば使わせたくないというスタンを民間側でとっている方がいるため、官主導でエネルギー政策をおこなっていくという話をしてきたとのこと。つまり、洋上風力というエネルギー政策自体にも反対の意見が町内から出ているということ。
主幹産業は漁業であり、ふるさと納税でも11億円と周辺市町村と一桁差をつけているのが寿都町。ふるさと納税自体は官を経由したものであるが、民間が生み出した産品や寿都町を想う方々によって生まれている効果だろう。その漁業に関して海の上の風力発電が影響がゼロとはいえない、と考えるのもうなずける。
必死の努力でブランド化してきた民間の業者からすれば、洋上風力でさえ否定的であり、さらに核ゴミとなったらもってのほかなのだろう。
街というものが、自治体という団体の予算が重要であるのか、そこに住まう人たちの想いや努力、生み出した経済が重要であるのか。今回の件により、官と民の関係性を当編集部としても深く考えさせられてしまった。

調査ストップは首長と北海道知事に意見を聞く事で決まる
ここでNUMOのウェブサイトをみてみると、特設ページとしてQ&Aなどがある。
引用すると、
Q:いったん調査が始まったら、途中で止めることはできないのではないですか?
A:文献調査は、全国規模の文献・データに加え、地域固有の文献・データを机上で調査するものです。その位置付けは、地層処分に関心を示していただいた地域の皆さまに、事業をさらに深く知っていただくとともに、更なる調査(概要調査)を実施するかどうかを検討していただくための材料を集める事前調査的なものです。したがって、処分場の受入れを求めるものではありませんし、文献調査後に概要調査、概要調査後に精密調査に進もうとする場合には、市町村長および都道府県知事のご意見を聞き、反対の場合は先へ進みません。
とのことだ。つまり、寿都町民にとっては、寿都町長と北海道知事の意見次第であり、住民の代表である2名へ様々な形で想いを伝えるしかない。
では、寿都に住民ができることは?
「町長や知事の意見を聞き、反対の場合は先へ進みません」とNUMOのサイトに記載がある。
これを読んで、住民はどう思うだろうか?
「町民の意見は聞かないのか!」
「勝手に判断するな!」
と思ってしまうのかもしれないが、一度冷静になろう。
町長や知事は、住民の代表だ。住民は、誰をトップにしたいか直接選ぶことができ、自分の考えを代わって反映してくれる人を投票で決めるのが選挙。「選びたい人がいない」と無関心の層は思うのかもしれない。しかし、みなさんが選んだ(自分が投票しなくても)代表が、代わってとり行うのがルールとして定められている。
また、選ぶことも権利だが、リコール(解職請求)も、住民の権利のひとつ。今回の寿都町に関しては、一定の実績や評価があるからこその無投票当選が続き、5期目を迎えている寿都町長であり、対抗となる相手が存在しないというのもまた現状であるのかもしれない。
今回の文献調査応募が「住民側としての気持ちを正しく反映しきれていない」という状況であるならば、「リコール=違う人を町長に」という極論だけでなく、「勝手にどんどん進めないでくれ、ちょっと冷静に行こう」という想いを寿都町長に対してのリコール請求というかたちで行う事もあり得るのだろう。選挙で仕切り直し、再当選も可能なのだから。
ちなみに、今までの寿都町議会での委員会等にて行われた空気感では、議会議員9名のうち議長をのぞく8名の意向は4:4だという。同票の場合、議長が判断。
寿都町民の想いは、いかに。
